公布「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令」(健診項目関連)

2020年3月3日「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令」が公布された。

医学的知見の進歩、化学物質の使用状況の変化、労働災害の発生状況など、化学物質による健康障害に関する事情の変化していることを受け、化学物質取扱業務従事者に係る特殊健康診断の健診項目を見直すため、関係省令(安衛則、有機則、鉛則、四鉛則、特化則)の改正を行うもの。

背景

労働安全衛生法第66条第2項では、「事業者は、有害な業務で、政令で定めるもの(有害業務)に従事する労働者及び有害業務に従事させたことのある労働者で現に使用しているものに対し、医師による特別の項目についての健康診断を行わなければならない。」としている【特殊健康診断】

この「特殊健診」の項目については、有害業務ごとに「有機溶剤中毒予防規則(有機則)」・「鉛中毒予防規則(鉛則)」・「四アルキル鉛中毒予防規則(四鉛則)」・「特定化学物質障害予防規則(特化則)」等において具体的に定められている。

また、労働安全衛生法第67条においては、がんその他の重度の健康障害を生ずるおそれのある業務で、政令で定めるものに従事していた労働者の一部に対し、離職の際又は離職後に、本人の申請に基づき健康管理手帳を交付し、本人に対する健康診断を実施することとされている。当該健康診断の項目については、労働安全衛生規則に定められている【健康管理手帳制度】

これらの健診項目については、40年以上が経過し、その間、医学的知見の進歩、化学物質の需給関係の変化、労働災害の発生状況など、化学物質による健康障害に関する事情が変化してきている。

また、引き起こす健康障害が同じ特定化学物質間で、制度改正時期の違いから健診項目が異なっているものや、近年、臨床の現場であまり使われていない検査が含まれているもの等があり、健診項目を全体的に見直す必要が出てきている

【特殊健康診断】(安衛法第66条第2項)
事業者は、有害業務に従事する労働者に対し、特別の項目の健康診断(特殊健診)を行わなければならないと定められている。有害業務とは、労働者に健康障害を発生させることが明らかであり、健康障害防止措置が必要である業務。
(出典)厚生労働省 > 職場のあんぜんサイト

【健康管理手帳制度】(安衛法第67条)
がんその他の重度の健康障害を生ずるおそれのある業務に従事していた労働者に対し、離職の際又は離職後に、本人の申請に基づき国が健康管理手帳を交付し、無償で健康診断を受けられるようにする制度。
(交付対象業務:以下の物質の製造や取扱い等を行う業務)
1.ベンジジン及びその塩 2.ベータ‐ナフチルアミン及びその塩 3.粉じん作業 4.クロム酸及び重クロム酸並びにこれらの塩 5.砒素 6.コークス又は製鉄用発生炉ガス 7.ビス(クロロメチル)エーテル 8.ベリリウム及びその化合物 9.ベンゾトリクロリド 10.塩化ビニル 11.石綿 12.ジアニシジン及びその塩 13.1,2ージクロロプロパン 14.オルト-トルイジン
(出典)厚生労働省神奈川労働局 > 健康管理手帳制度について

改正の概要

●労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案概要(pdf)

1.尿路系に腫瘍のできる特化物(11物質)の特殊健診項目の見直し(特化則)

ベンジジン等の尿路系腫瘍を発生させる特定化学物質の健診項目は、設定後数10年を経過しているため、最新の知見を踏まえて設定されたオルト-トルイジン(2017年1月設定)の健診項目と整合させる(尿中の潜血検査等の追加)。

(対象物質) ベンジジン及びその塩、ベーターナフチルアミン及びその塩、4-アミノジフェニル及びその塩、4-ニトロジフェニル及びその塩、ジクロルベンジジン及びその塩、アルファーナフチルアミン及びその塩、オルトートリジン及びその塩、ジアニシジン及びその塩、オーラミン、パラージメチルアミノアゾベンゼン、マゼンタ

2.特別有機溶剤(9物質)の特殊健診項目の見直し(特化則)

トリクロロエチレン等の特別有機溶剤(9物質)について、発がんリスクや物質の特性に応じた健診項目に見直す(腹部の超音波による検査等の追加)。

(対象物質) トリクロロエチレン、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロエチレン、スチレン、クロロホルム、1,4-ジオキサン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、メチルイソブチルケトン

3.重金属(3物質)の特殊健診項目の見直し(鉛則、四鉛則、特化則)

近年の医学的知見や四アルキル鉛の取扱量の減少等を踏まえ、四アルキル鉛の健診項目について、健診の主目的を、短期の大量のばく露による急性中毒の予防から、無機鉛と同様の「長期的なばく露による健康障害の予防」とすることが提案された。また、カドミウムについて、新たに肺がんが発生するとの知見が得られたことと、腎機能異常の早期発見のため、以下のとおり、健診項目を見直すこととなった。

  • 四アルキル鉛の健診項目を、鉛則の健診項目と整合させる。また、健診頻度も「3月に1回」から、鉛と同様に「6月に1回」とする。
  • カドミウムについて、新たに得られた肺がんに関係する知見への対応や、腎機能異常の早期発見のため、健診項目を見直す。

(対象物質) 鉛、四アルキル鉛、カドミウム

4.その他医学的知見の進歩等を踏まえた特殊健診項目の見直し

上記1~3項の改正に加え、最新の知見等を踏まえ、効果的・効率的な特殊健康診断を実施するための健診項目の整備を行う。

① 肝機能検査の見直し(11物質)(特化則)
② 赤血球系の血液検査の例示の見直し(6物質)(特化則)
③ 腎機能検査の見直し(44物質)(有機則)
④ 「作業条件の簡易な調査」の追加(有機則、鉛則、四鉛則、特化則)

5.健康管理手帳制度における特殊健診項目の見直し(3物質)(安衛則)

前「1.尿路系に腫瘍のできる特化物(11物質)の特殊健診項目の見直し」を踏まえ、ベンジジン等3物質に係る健康管理手帳制度における健診項目も、オルト-トルイジンに係る当該制度における健診項目と整合させる。

(対象物質) ベンジジン及びその塩、ベーターナフチルアミン及びその塩、ジアニシジン及びその塩

スケジュール

【公布】2020年3月3日
【施行】2020年7月1日

【経過措置】

  • この省令の施行の際現にこの省令による改正前のそれぞれの省令の規定によりされている報告は、この省令による改正後のそれぞれの省令の規定による報告とみなす
  • この省令の施行の際現にある旧省令に定める様式による用紙については、合理的に必要と認められる範囲内で、当分の間、これを取り繕って使用することができる
  • この省令の施行前にした行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による

根拠法令

労働安全衛生法 第27条第1項・第66条第2項・第66条の3、第67条第4項・第100条第1項

出典

○厚生労働省「「労働安全衛生規則等の一部を改正する省令案要綱」の諮問と答申」/2020年1月24日